誰にも言えないことの1つにアルバイトがある。

進学校であるため、校則上は禁止されている。


しかし、生活苦と孤独という不安から逃れるためにはバイトをするしかなく、入学式から1週間と経たないうちに私はバイトを始めた。


学校以外の居場所は家だけだった私にとってバイト先のカフェは救いだった。



古いビルにあり、緑の蔦がコンクリートの壁に張りついて生を全うしているが、中は古びた様子もなく、趣がある。


「晴香ちゃん、もう終了時刻じゃ。今日はそこまで良いぞ」



「はい。では、お先に失礼します」



そう言って更衣室に戻ろうとすると、



「晴香ちゃん、これを持って帰りなさい」



手渡されたのは、ポリ袋が張り裂けそうなほどに入ったパンの耳だった。



「こんなにもらっていいんですか?」



マスターはこっくりと頷き、にっこりと優しい微笑みを私に投げかけた。
  

私は一気にあったかい気持ちに包まれた。




…私のこと見ててくれてる。



そう実感する事ができて、素直に嬉しかった。