昇降口に到着した頃には息が上がっていた。

冷たくなった腕時計を見ると、
時刻は午後5時58分。 
あと2分でライブが始まってしまう。 

下駄箱に飛びかかり、思いっきり開けた。


「何、これ…」


白い吐息と共に声が漏れ出た。

シューズの上に白い封筒がお行儀よく乗っていた。

手袋を外し、封筒を手にとり、ビリビリと封を切る。

入っていたのは1枚の便箋と、2つ折りになった画用紙。

画用紙を先に開くと飛びだす絵本の構造になっていた。

Merry Christmas☆の文字が中心にあり、周りには小さな星がいくつも散りばめられ、サンタクロースにトナカイ、赤い屋根のレンガ造りの家まであった。

あまりのクオリティの高さに驚き、適当な言葉が出てこない。



誰が私に…?  



その答えを探して便箋を開く。

そこにはこう書かれていた。






Dear Haruka

MerryChristmas!

If you allow me,
I'll want to stay with you forever.

I wish your happiness.

I love you. Not lie. I mean it.





差出人不明、英語で書かれたその手紙のどこが良かったなんか分からない。

ただ無意識のうちに泣いていた。

身体の奥底がじんわり温かくなって、涙という形在るものに変わって現れた。

心臓が早鐘を打って全身に血液が巡る。

聞こえてくるはずの音は私の耳には届かない。

この手の中にある言葉だけが脳裏に濃く焼きつけられて、他のものとは一線を画して私の心に深く深く刻み込まれた。

私の体の一部になったそれを強く抱きしめ、しゃがみこむ。







I love you.





―――――愛してる






短いのに一番口には出せなくて、飲み込んでしまう言葉。

それをこんな形で受け取ることになるなんて…






私…







嬉しいよ。









嬉しいよ。








嬉しくて、たまらないよ。








心の中で流れる川は急激に水かさを増して氾濫し、心をまるごと飲み込んだ。

私の体は凍りついたように動かない。

涙だけが熱を帯びて滝のように流れる。



日が沈み、すっかり暗くなった廊下に、どんな音よりも大きく私の泣き叫ぶ声が響きわたっていた。