冬の寒さに必死に耐えている桜たちが林立するトンネルを慎重に歩いていく。


時々滑りそうになって、へっぴり腰になる。
誰かが見ていたらきっと笑われているだろうなぁと思ったら頬が紅潮して、熱を帯びた。


ふわふわと柔らかな粉雪が私の肩に降り、一瞬で溶けていく。





満点の星達が私を見ていた。












校門をくぐると、耳に激しいサウンドが聞こえてきた。

聖なる夜には似つかわしくない。
むしろ壊してしまいそうだ。

繊細で、触れたらパリッとヒビが入る薄い氷にわざわざ熱湯を注いでいるようだと思いながら歩いていく。








クリスマスか…

最後にケーキを食べたのはいつだっけ?




思い出したのは真っ白な生クリームがたっぷりコーティングされ、
真っ赤なイチゴや砂糖でできたサンタクロース、赤いレンガの家、
Merry Christmasと書かれたチョコレートが乗せられた大きなクリスマスケーキ。

私は待ちきれなくてイチゴを摘まみ食いして、毎年怒られていた。


でも、笑ってるんだ。

みんな私のイタズラを楽しそうに見つめているんだ。

私もそれを見て嬉しくなって、心がほんわり温かくなる。

私が微笑み返すと、口にもうひとつイチゴを突っ込まれる。

甘い甘いイチゴにほっぺたが落ちそうだった。




最近は食べてない。

あの日から私の時間は止まってて、流れているはずの時間に歩幅を合わせて歩けない。

確実に、一定の速さで過ぎていく日常に色がない。

無色透明。

色付いても忘れていってしまう。
その時感じた思いや匂い、音などの全てを。

大切な人との思い出は記憶して忘れないのに、他はすべて消えてしまう。
今の記憶も昔の記憶も…





―――――きれいな星…





何度見上げても見えないのに、何度でも見上げてしまう。

2度と握られない手のひらに今日は白い箱がある。







気がつくと後少しで昇降口だった。