何気ない会話をしているうちに駅に到着した。

関くんは私とは逆方向なのにわざわざホームまで見送りに来てくれた。


「じゃあね。もう遅いから気を付けて」

「ありがとう。それじゃあ…」


ドアが開いて私は足を出した。

電車の中は冷房が効き過ぎていて体が一気に冷やされる。

人はあまり乗っておらず、空席ばかり。

乗降口の近くの席に座ろうとするとコンコンと窓ガラスが鳴る音がした。





『おやすみ』







彼の口の形がそうだった。



走り出した電車から必死に彼の姿を見つめる。


どんどん遠ざかって、やがて見えなくなる。


それに従って私の心は涙を流し始める。 


溢れないように自分を押さえつける。



でも、心の中にある思いが口から溢れてきそう。







いつまで自分を無視して生活できるか。

いつまで八千草ちゃんに気づかれないでやり過ごせるか。

これは時間の問題だ。


私は越えてはいけない一線の先に片足を踏み入れてしまっている。

今まで越えたことの無い線、不明瞭でよく分からないその線。

向こう側に行ってしまったら、今とは見える景色が変わってしまうだろう。


どうやら夏が災いして、私の胸を大火傷させたみたい。





お願い、もう少し。

もう少しだけ耐えて。


私が安全だと判断できるまで、  
あと少し…







車窓からの景色はぼやけてよく見えなかった。