「あ、そういえば、和英辞典持って来た?」
思い出したように凛が言う。
「え!?今日いるの!?」
「昨日先生言ってたでしょーが」
美桜の頭を軽く叩く。
美桜はもうそれどころではなかった。

「どうしよう!!あの先生、怒ったら怖いって聞いたよ!」
「誰かに借りたら良いじゃん?」
凛の提案に、美桜は「あ、そうか!」と頷く。

早速他のクラスの友達に辞典を借りに行く。

「ちーちゃんのクラス行こう」
ちーちゃんとは、最近仲良くなった子。
クラスは大分離れているが、会えば話をする仲。


ちーちゃんのクラスに着いた。
けれど、ドア付近に男子が溜まっていて、ちーちゃんを呼ぼうにも呼べない。

ど、どうしよう・・。


「そこの男子に呼んでもらったら?」
凛がそう言うものの、人見知りな美桜は動けずにいる。
すると、偶々二人の会話を聞いていた一人の男子が話しかけてきた。
「どうしたー?」
「あーえっと・・」
美桜は人見知りな上に男が苦手。
中々言い出せない。

「ちーちゃん呼んでくれる?」
あまりにも言い出せないため、代わりに凛が言った。
「いいよ」
男子は教室に入り、ちーちゃんを呼んでくれた。
無事、辞典を借りることができた。


あ・・・呼んでもらったし、お礼言わないと・・ね。

「あの・・・」
さっきの男子に話しかける。
「何?」
「ありがとうございました」
と言ってお辞儀をすると、飴を差し出す。
「あーどういたしまして」
男子はあれだけのことで飴をくれるのかと驚きながらも、飴を受け取り微笑んだ。




「あたし、思ったんだけどー」
凛が口を開いた。
「ん?」
「美桜って、人に何かしてもらうたびに飴あげるでしょ?だからすぐ飴なくなるんだよ」
呆れがちな凛。
彼女の言った通り、美桜はいつも人に飴をあげている。
「そうかな?飴食べると幸せな気分になれるよ。凛もいる?」
飴を差し出す。
「いらない。美桜が食べなよ」
「うん!」
美桜は口の中に飴を放り込んだ。