「相変わらず先輩の寝顔は可愛いですね。でもダメですよ、こんなところで眠るのは。狼の群れに、襲ってくれと言っているようなものですから」


「狼の群れ……?」



先輩が、きょとんと首を傾げる。



“狼”が何を指すのか、少しだけ考える素振りを見せて、合点がいったのか「大丈夫だよ」と苦笑する。



「ここは校内で唯一、不可侵領域が約束された場所だし。それに……」


「それに?」


「輪くんが私を守ってくれるんでしょ?」


「~~っ!」



この人は。


ああ、もう!


どうしてそういうことを平然と言ってのけてしまうんだ。



俺は自分の顔に熱がこもるのが分かった。



「せ、先輩はずるいです。そんなこと言われたら、何も言えなくなるじゃないですか」


「ふふ。輪くんは、私の騎士様だもんね」


「もちろんですよ。遠子先輩は、何に代えても俺が守ってみせます。例えこの学校の王であろうと、先輩を害するヤツらは全員、俺の敵です」


「……」



生徒会のやつらは許さない。


けれど、人知れず感謝もしているんだ。



あの日、深い絶望を宿した瞳の先輩に会って、俺は……。




―――やっと。


翼を失くした女神が、俺のもとに舞い降りてきてくれたのだと、そう思ったから。