いや、実際にそうだ。
先輩は何もしていない。
何もしていないのに、周囲が勝手に“裏切り者”の烙印を押し付けただけ。
まったく馬鹿なやつらだと思う。
勝手に疑心暗鬼になって、一方的に被害者面をして、先輩を絶望の淵に追いやった。
今まで全幅の信頼を寄せていた相手に、身に覚えのない罪で弾劾される先輩の気持ちを考えたことがあるだろうか。
裏切り者だと、最低なやつだと、そう言われた先輩の気持ちを。
可哀想な遠子先輩。
仲間に罵倒され、恋人に見捨てられて。
遠子先輩は、心が壊れてしまった。
以前まではころころと変わっていた愛らしい表情は、今は俺以外の人間の前では無機質と化す。
口数も極端に減って、好奇心旺盛だった彼女の朗々とした性格は、常に人に対して懐疑的な見方をするようになった。
そして何より。
この学校で圧倒的な権力を誇る生徒会を裏切った遠子先輩は、現在、針のむしろ状態だ。
学校に通うだけで、生徒たちから顰蹙を買ってしまう。
嫌がらせのようなものをされるのも、もはや日常茶飯事だった。
冤罪であるはずの先輩が、どうしてこんな目に遭わなければならないのか。
すべては遠子先輩を信じられなかった、生徒会のやつらのせいだ。
俺は校舎の三階を睥睨する。
気づいていないとでも思っているのだろうか。
お前たちが、遠子先輩を見ていることに……。