side???
苛立ちのあまり、噛み締めた唇から血が滲む。
中庭の二人は、俺たちが見ていることなど知らないのだろう。
そこだけ切り取られた別世界のようだ。
俺たちから隔離された、あの二人だけの世界。
「絵になるよねー、あの二人」
横から発せられた、まるで俺の内心を読み取ったような発言に、俺は少しだけ動揺した。
声の主は、俺の腹心である人物。
生徒会の書記を務める、烏丸静佳(からすましずか)だった。
「遠子ちゃんの浮世絵離れした容姿はもちろんだけど、男の方……鈴原(すずはら)輪だっけ。遠子ちゃんにある意味似てて、人形みたいに綺麗だよね」
「遠子は人形じゃねぇ」
「分かってるよ。遠子ちゃんは人形じゃない。人形は僕たちを裏切ったりしないよ」
チッ、と舌打ちする。
嫌な事を思い出してしまった。
遠子……矢敷(やしき)遠子は裏切り者だ。
俺たち生徒会を、ずっと騙していた。
「遠子ちゃんもさぁ、強い味方を手に入れたよね……。知ってる?あの鈴原輪ってやつ、遠子ちゃん以外の人間にはにこりともしないの。いかにも忠実なナイトって感じだよね」
「……」
「竜司(りゅうじ)、あのさ。そのクセやめたら?唇、血が出てる」
「うるせぇ!!」
どうしようもなく苛立って、近くにあった机を蹴飛ばした。
静佳は俺の剣幕に押し黙るが、込み上げてくる苛立ちは消えない。
ずっと。ずっとだ。
遠子が裏切ってから、ずっと。
「―――なんか、元に戻っちゃったみたいだね。遠子ちゃんと出会う前の、僕たちに……」
ぽつりと呟かれた静佳の言葉は、聞こえないフリをした。