「先輩。こんなところで寝てたんですか」
日当たりのいい、中庭のベンチ。
つい微睡んでしまった私を、どこからか現れた彼が優しい声で起こす。
「輪(りん)くん……?」
「はい、輪です」
頬に添えられた手に触れ、確かめる。
間違いない、輪くんの手だ。
確証を得た私は、ゆっくりと瞼を上げた。
「おはようございます、先輩」
視界に映ったのは、天使のような笑みを浮かべる輪くん。
男の子なのにきめ細かい肌や、長い睫毛はいつみても羨ましいなと思ってしまう。
「おはよう、輪くん」
「相変わらず先輩の寝顔は可愛いですね。でもダメですよ、こんなところで眠るのは。狼の群れに、襲ってくれと言っているようなものですから」
「狼の群れ……?」
寝起きの頭でぼんやりと考える。
狼の群れ、つまり捕食者?
連想ゲームのように、頭の中でキーワードを次々と思い浮かべて、ハッとする。
ああ、“彼ら”のことか――。
この学校を支配する、王様たち。
「大丈夫だよ。ここは校内で唯一、不可侵領域が約束された場所だし。それに……」
「それに?」
「輪くんが私を守ってくれるんでしょ?」
「~~っ!」
輪くんの顔が、瞬間的に真っ赤になった。
「せ、先輩はずるいです。そんなこと言われたら、何も言えなくなるじゃないですか」
「ふふ。輪くんは、私の騎士様だもんね」
「もちろんですよ。遠子(とおこ)先輩は、何に代えても俺が守ってみせます。例えこの学校の王であろうと、先輩を害するヤツらは全員、俺の敵です」
「……」
そう言って、輪くんは私の手の甲に口付けを落とす。
まるで騎士の誓いみたいだ、と他人事のようにぼんやり思った。