興奮のあまりわなわなと震える手で、今にも出てしまいそうな叫び声をこらえるように口をおさえる。



「ほら、行くぞ」

「触るなカス!!」

「カスカスうるせーよ」

「んだとコラァ!!」


『ゆづ』と呼ばれていた細マッチョは、

そのまま友達さんに連れて行かれてしまっていた。


「……!! いけない、忘れないうちにスケッチ……!!」


私は思い出したようにスケッチブックを手に取り、まだ何も描いていない真っ白なページを適当に開いた。

あの完璧な筋肉を、あの一瞬で、完全に目に焼き付けた。


「あ……れ……?」


………と、思っていた。

だけど。


「………? なんか、ちがうな…。鎖骨の辺りのラインは……ええと…」


描いて見たはいいものの、どこか違う。

思い出せるのに。

こんなにも鮮明に思い出せるのに。


この真っ白な紙に、いざシャープペンで再現しようとしても無理だった。


………情報量が圧倒的に足りない。

あんな一瞬なんかじゃ全然足りない!!


もっと観察して完璧なものにしなきゃ……!!



「……待ってろ細マッチョ:ゆづくん……!!」


―――キーンコーンカーンコーン…


「やばっ!! 昼休み終わっちゃった!」


スケッチブックを閉じて立ち上がり、ゆづくん達の後を追うように私も教室へ向かって走る。

その足取りはとても軽かった。


……こうして、私の私による私のためのゆづくんの追っかけ……ではなく、『ゆづくんの筋肉のおっかけ』が始まったのだった。