「……ったく…」


ごめんね、と続ける私を、ゆづくんがそっと抱き寄せてきた。


「……俺は、別に、自分の生まれ育った環境のせいにするつもりはねえけど」

「………」

「自分以外の人間を、今まで信じられなかった」

「………」


それは、きっといやでもそうなると思う。

幼い頃から、そんなにもつらい思いをしてるんだ。
誰を信じたらいいかわからなくなるのは、きっと当然のことだよ。


「けど、そんな俺の心に土足で入り込んできた奴がいた」


ゆづくんが、私を抱きしめる腕にぐっと力を込めた。


「そいつは、とんでもねえバカな奴で」

「……」

「見た目で判断して、勝手に遠ざかっていく奴とは違ってて。俺もこんな奴だから、警戒して遠ざけようとしたのに、どんだけ突き放しても俺の所に戻ってくるんだ」

「………それは、岡本さんのことですか? あいたっ」


私の背中側に回された手で、後頭部をゴツンと殴られる。


「お前、もうなんもしゃべんな」

「はいい……」


またなにか、余計なことを言ってしまったようです。


「……そんで、俺はそいつに、感謝してるわけ」

「なるほど、それで岡本さんと私が仲良くなっていくのが気にくわないと! ぁいたぁっ!!」


さっきより強い力で殴られた。


「黙ってろっつったろアホ」

「痛い……」

「………とりあえず」


ゆづくんはやっと私を離して、顔をのぞき込んできた。


「俺は、そいつに出会えてよかったって、今思ってるんだ」

「………っ」


なんて、優しい笑顔を浮かべてるんですかゆづくん。

こんなの、私じゃなくて岡本さん本人に伝えてあげたらいいじゃないですか。


「……よかったね、ゆづくん」

「?」

「そんな、いい人に出会えて、本当によかったね」


なんだかこっちまで嬉しくなって、思わず微笑んでそう言うと。

ゆづくんはまた、いつものように片手で頭を抱えて下を向く。

そしてため息をついたあと、私に聞こえないくらいの小さな声で何かを呟いた。





「っとに………とんでもねえバカな奴」