「借金ができた」


親父はただ、そう告げたという。


聞けば、心不全を患った親父。

もう長くないと医者に言われたと言っていた。

死ぬ前に離婚すれば、借金を自己破産として片付けることができると。


しかしお袋は首を横に振って、借金を自分が返すと笑った。


―――それからしばらくして、親父は息を引き取った。


お袋はいつも以上にバイトの量を増やしたが、親父の残した借金は到底返せるものじゃなかった。




「…………おかあさん」




学校から帰ってきた俺たちを待っていたのは。



「おかえり」と言って笑ってくれるお袋じゃなくて。


足が、手が、体が。

だらんと力なく浮いている、変わり果てた母親だった。