2011年8月、名古屋のとある設計会社。
24歳のみかはその年の春にとても大好きだった自衛官のMとすれ違いで別れ、就職試験に失敗し、ドン底な気持ちでその会社のパートの面接を受けにきた。
彼女の面接を担当したSは40代前半だったが、髪にも肌にも艶があり、もっとずっと若く見えた。
面接を終えた後、社内を案内しながらSは、この会社ではお昼は外で食べるか弁当を持参するだとかお手洗いはここだとか諸々説明しながら、さりげなく「この会社は社内恋愛禁止です。」と言った。
面接の前の晩は緊張と寂しさで眠れず、ひどい顔だと自覚していたので、強い日射しを受けて帰りながら、不採用になるだろうなとおもった。
しかし結果は意外なことに採用で、みかは9月からその会社で働くことになった。
他の数社からも採用を頂いたが、面接を担当したSに一目惚れしていた彼女は、彼のいる会社を選んだ。
Sは独身で、本と酒を愛する人だった。
みかとSは仕事終わりに二人で飲みに行くようになり、やがて休日にも会うようになった。美術館、バー、夜景の見えるタワー・・・Sがみかを連れて行ったところはどこも大人な雰囲気で、彼女をどんどん夢中にさせた。
しかし、終わりは呆気なく訪れた。みかは彼が自分の友達の写真を見て、悪く言ったのをどうしても受け流すことができなかった。大人の男だと思っていたけど、そうじゃなかった。
Sとみかは会社の同じフロアで働いていて、二人で会うのを止めてからも、ほぼ毎日顔を合わせた。
みかは彼を忘れようと他の出会いを探したが、引きずりやすい性格故に、なかなか新しい恋は見つけられなかった。