「ご、ごめんなさい!」



あたしは慌てて謝った。

けど……相手は、どう見てもヤバそうな人だった。



「ッチ、謝って済むかよ。骨折れてたらどーすんだよ」



金髪!

剃り込み!

目つきめっちゃ悪いし……

ピアス! いっぱいつけてる!



漫画に出てくるみたいな、怖いヤンキーだ。

あたしは何も言えなくて、黙ってしまう。



「トシキ、どしたべ?」

「コイツがさあ、いきなりぶつかってきたんだけど」

「ハァ〜〜? うっぜえ! 誰よ?」



ヤンキーが増えた! 二人はあたしの顔を覗き込む。目が合うのも怖いけど、逸らすのはもっと怖かった。

あたしは泣きたくなった。



サエ……カンナ……



お兄ちゃん……!!



誰でもいいから、助けて!



「かわいくね? ね、一人なの? 友達いっしょ?」

「何ナンパしてんだよタクミ!」

「いいじゃん別に。オレ達これから飲み行くんだけど一緒に行かね? 奢るからさあ」



ヤンキーの一人が、あたしに手を伸ばしてくる。

腕を掴まれた。あたしは怖くて何も出来ない……



「黙ってるしいいんだよね? 行こっか。部屋どこ?」



どうしよう……



このままだと、サエやカンナも……



お願い……



誰か……!!



――ジリリリリリリ!!



な、なに?



「お客様! 火災が発生したようです! 速やかにお逃げください!!」

「ハァ!? マジで!?」

「おい、ヤベーよ、逃げようぜ!」



突然廊下に響いたベルの音。あたしから離れるヤンキー二人と、逆に、あたしに近づいてきたのは、くるくる髪に黒いフレームの眼鏡をかけた、アヤシイ店員さん。



ヤンキーはあっという間に逃げていった。他の部屋からもたくさん人が出てきて、サエとカンナがあたしの名前を呼ぶ声が聞こえる。



「……大丈夫だった?」

「は、はい!?」



店員さんがあたしに声をかける。



「あれ、本当は嘘なんだ。怪我はなかった?」

「は、はい……」

「気をつけてね花畑さん。アイツら、たまにああやって迷惑行為してるんだ」



あたしの名前? どうして知ってるの?



この人は……誰なの?



「ミキ! 大丈夫!? 早く逃げなきゃ!!」

「サエ、カンナ!」



部屋から出てきたらしい二人があたしに抱きついてきて、店員さんはそれを見届けるとどこかへ去っていった。



名前も聞けなかった。くるくる眼鏡の、アヤシイ店員さん……。



一体誰なの?



あたしを……


助けてくれたの……?