赤、青、黄、緑の四色ペンと使い古されたシャープペンシルと細かな消しカス。

1人で使うには勿体なさすぎる大きなテーブルの上に、ノートと教科書が秋の枯葉のように散らばっている。

大学受験を控えていると考えれば、この光景を受験勉強の追い込まれている状況だと思う。だがこの日本史Bの教科書は、また違うのだ。

この散乱した文房具の持ち主は、今までそこで作業していた。だが、もうすでにペンを置き、視線が向かう先はノートではない。テレビであった。煌びやかなセットを背に、センターマイクが1つ。

「続いては、アーネストのお二人です」

司会の女優がよく完成させた笑顔でコンビ名を言う。音楽に乗って登場すると同時に、客席側から黄色い歓声が起こる。まさに、売れてる芸人のそれだった。手をぎゅっと握りしめ、スーツ姿の二人に見入る。

漫才とは不思議なもので、人を『笑わす』『惹きつける』の次に『印象付ける』と言うものがあると思う。センターマイクを中心に話し続ける二人が、魔術師のように観客を取り込み、離さない。本当に面白い漫才をするコンビは、きっとそれがうまいのだろう。

たった数分間の短い漫才が瞬きの如く終わってしまった。輝いてる人を見れてよかった。テレビの電源を消し、テーブルに向かい作業を再開した。

ぎい、ドアが開く音。




-おかえり、今日のあなたも魔法を使っていた。