「仕事中、ミスでもして三好君に叱られちゃった?」

「え?」


お客様の質問は、考えていたこととは違っていて。
どうやら三好さんに怒られた私が、三好さんのことをいつも以上に気にかけているように見えてしまっていたようだった。


「違いますよー。怒っているのは私の方です」

「あらそうなの? 一緒に働いているんだから、仲良くしなきゃね」

「ははっ」


答えに困るよ。
ケンカの原因自体、仕事とは全く関係ないことなんだもん。


あ、もしかして三好さんは、怒っていながらも普通に仕事をしているの?
可愛げのない私に腹が立っていても、何か言いたくても。
さっきの件は、仕事とは無関係だから?
なにも言わないの? 態度にも出さないの?


今は仕事中だから自分達が醸し出した嫌な空気を、敏感に察してしまったお客様に気を使わせることのないように。
できるだけ普段と変わらない仕事をしたり、私を呼んだりしているってこと?


お客様に言われ、三好さんを見つめると。
カウンター越しに顔を上げた三好さんの視線が私を捉え、そのまま私の背後へと逸らされて行き。


「いらっしゃいませ」


来店客へと向けられてしまった。