「やりたいことをやった方がいい」
突然切り出した彼の言葉が、胸に深く突き刺さった。
「華穂ちゃんが今、どんな事情を抱えているのかはわからない。だから『夢を追いかけろ』なんて無責任なことを言うつもりもない。けれど、もし、今自由に選択することができるなら、好き勝手しておいた方がいい。自由って、意外とすぐに手に入らなくなってしまうものだから」
まるで経験してきたかのように彼は言う。
もしかすると、大企業の跡取りとして育てられてきた彼の日常は、自由のない窮屈なものだったのかもしれない。
自分と重ね合わせているのだろうか。自由に生きられる今の居場所を作り上げるまで、彼はどんな苦労を背負ってきたのだろう。
そんな彼と私を比べるだなんて、おこがましいけれど、私にだって夢をあきらめなければならなかったそれなりの理由がある。
「就職活動をしていたとき、父が大病を患って――」
風がいっそう強くなってきたから、ちゃんと御堂さんのもとに声が届いているのかはわからない。
それでも口を動かし続ける私に、彼はじっと黙って耳を傾けてくれた。
「なんとか安心させたくて、大手企業に就職を決めたかったんですが、全部落ちてしまって。そんな中、今の会社だけが雇ってくれました。ただし、事務職として」
このまま就職活動を続けていれば、小さなデザイン会社にでも就職できたかもしれない。けれど、どこにも雇ってもらえない可能性だってある。
数多の就職試験に落とされて、自信を喪失していたのも事実だ。
そんな中、提示されたおいしい妥協案。そして、目の前にちらついた両親の喜ぶ顔。
突然切り出した彼の言葉が、胸に深く突き刺さった。
「華穂ちゃんが今、どんな事情を抱えているのかはわからない。だから『夢を追いかけろ』なんて無責任なことを言うつもりもない。けれど、もし、今自由に選択することができるなら、好き勝手しておいた方がいい。自由って、意外とすぐに手に入らなくなってしまうものだから」
まるで経験してきたかのように彼は言う。
もしかすると、大企業の跡取りとして育てられてきた彼の日常は、自由のない窮屈なものだったのかもしれない。
自分と重ね合わせているのだろうか。自由に生きられる今の居場所を作り上げるまで、彼はどんな苦労を背負ってきたのだろう。
そんな彼と私を比べるだなんて、おこがましいけれど、私にだって夢をあきらめなければならなかったそれなりの理由がある。
「就職活動をしていたとき、父が大病を患って――」
風がいっそう強くなってきたから、ちゃんと御堂さんのもとに声が届いているのかはわからない。
それでも口を動かし続ける私に、彼はじっと黙って耳を傾けてくれた。
「なんとか安心させたくて、大手企業に就職を決めたかったんですが、全部落ちてしまって。そんな中、今の会社だけが雇ってくれました。ただし、事務職として」
このまま就職活動を続けていれば、小さなデザイン会社にでも就職できたかもしれない。けれど、どこにも雇ってもらえない可能性だってある。
数多の就職試験に落とされて、自信を喪失していたのも事実だ。
そんな中、提示されたおいしい妥協案。そして、目の前にちらついた両親の喜ぶ顔。



