Melty Smile~あなたなんか好きにならない~

黒木さんに任されたのは、ビタミン補助タブレットのパッケージデザインだった。
資料によると、分類的には医薬品ではなくお菓子に近いそうで、ビタミンCや鉄分を多く含み、女性のお悩み解決や美肌効果を前面に押し出した広告戦略を予定しているらしい。味はミント。

ミントの葉っぱとタブレットの画像、宣伝文と商品名、社名などの情報を受け取った。
このあとどのような装飾を施してどう配置するかは私次第。

資料をたっぷり眺めたあと、目を閉じてイメージを膨らませた。
ビタミンのイメージカラーといえばオレンジやイエローだろう。鉄分は、ブルーベリーやプルーンを連想させる紫色。ミントは言わずもがな、グリーンだ。
それらを単純に配置しただけでは、取っ散らかった印象になってしまう。

女性向け、それも、幅広い年齢層に対応するとなると、落ち着いたデザインの方がいいかもしない。けれど、目立たなければ本末転倒だ。
女性の美を応援するのなら、清潔感もほしい。
さて、何を選択しよう。女性が思わず、手に取りたくなるパッケージとは――。

四時間もの間。脇目もふらず、トイレに行くことも忘れて、ひたすら目の前のディスプレイに集中していた。
こんなにも神経を研ぎ澄ましたのは、いつぶりだろう。少なくとも、社会人になってからは覚えがない。
学校で学んだデザイン創りのノウハウが、プロの現場でどれほど通用するのかはわからない。その上、四年間も離れていたブランク。
それでも、やるしかない。

こんな機会、滅多にない。自分の作ったものを、プロに評価してもらえるなんて。
自分がどこまで出来るのか、夢をあきらめて今の道に進んだことが正解だったのか、これで確かめられるだろう。