Melty Smile~あなたなんか好きにならない~

明度とは、その名の通り、色の明るさのことだ。高ければ絵の具の白を混ぜたときのように明るく見える。彩度とは、鮮やかさ。どれだけ原色に近いハッキリした色であるかを示している。
それらは数値で表すことができ、つまり、全ての色は数値に置き換えることができる。

私がカラーパレットの詳細選択ボタンを指し示し、明度と彩度を数値で指定しようとすると、黒木さんはぎょっと目を見開いた。

「どうして華穂さんがこんなマニアックな使い方をご存じなんですか!?」

確かに。素人は色を数値で表そうなんて考えない。
しまった。また調子に乗ってこんなことを。昨日も御堂さんにバレそうになったばかりなのに。

「……実は、昔、このソフトを使ったことがあって」

「デザイン、されてたんですか?」

「デザイン系の大学に通っていたんです」

「えっ!? それって……」

「御堂さんには、言わないでくださいね? 恥ずかしいので……」

「俺がどうかしたのかな?」

私と黒木さんの肩が同時に叩かれて、私たちふたりはびくりと固まった

いつの間にか部屋に戻ってきていた御堂さんが、背後からディスプレイを覗き込むようにして立っていた。

「い、いつからそこにいたんですか、社長」

「黒木くんが華穂ちゃんにけちょんけちょんにダメ出しされてるあたりからかな」

「最初っからじゃないですか……」

「情けないなー黒木くん。華穂ちゃんの言う通りだよ」

御堂さんは手に持っていた薄いクリアファイルで、黒木さんの頭をぺちっと叩いた。
叩かれたことよりも素人の私にまっとうな指摘をされたことがショックだったようで、黒木さんはデスクに顔を埋めてしばらく立ち直れないでいた。