打ち合わせが終わり、黒木さんを一階エントランスまでお見送りしたあと。
私は商品開発部の自席へと戻り、いつもの仕事に取りかかりながらも、ため息を連発していた。

もちろんため息の原因は御堂さんで、会ってもいないのに私をこんなにも不安定にさせることができるなんて、彼には私を不幸にさせる天賦の才があるのかもしれない。

なにより、直接会ってちゃんとお礼を言いたかったのに、それすらも叶わなかった。
怪我を負わせてごめんなさいとは言ったけれど、守ってくれてありがとうとはまだ言えていない。

自分から連絡をしてみればいい話なのだけれど、距離を置きたいような話をされ、これ以上近づいていいのかわからなかった。
ひょっとしたら迷惑かもしれない。私がこれ以上、関わり合いを持つのは……。

もう一度深いため息をついて、重た気に瞼を閉じたとき。

「暗い顔してるなぁ」

うしろから聞こえてきたのは陽気な笑い声。振り返ると、田所部長が楽しそうに私を覗き込んでいた。

「佐藤さんは、御堂くんが来ると嫌そうな顔をするし、来なかったら来なかったで嫌そうな顔をするんだなぁ」

「そんなことは――」

一応否定はしてみたものの、実際その通りだった。

「御堂くん、怪我をしたってね。心配かい?」

「……はい」

「お。そこは否定しないんだな。あんな軽い人、どうでもいいとか言うのかと思ってた」

「さすがに怪我人にそこまで不謹慎なことは……」

ましてや、その怪我を負うことになった原因が私なのだということを、田所部長は知らない。