「……心配、してたんですよ」

もっと早く、元気な声を聞かせてほしかった。

『軽症なのは知ってるだろう? あの日、付き添ってくれた病院で医師からの診断を一緒に聞いてたじゃないか』

あまりにも平然と、冷静なことを言う。

「そういう意味じゃ、ないんです」

本当は、私が刺されていてもおかしくない状況だった。
それを命がけで守ってくれた上に『君が無事なら、それでいい』と自分は血を流しながら言うのだ。
そんなことをされて、平静を保っていられる人がどこにいるっていうの?

今でもあのときの情景が頭に焼きついている。
アスファルトに滴る鮮血と、青白い顔の彼。
それなのに、自分の身はさて置いて、不安に震える私を抱きしめてくれた、痛いくらいの優しさ……

「ちゃんと謝りたくて。私を庇ったせいでそんな怪我を負わせてしまって、ごめんなさい」

彼のことだから『平気平気♪』なんて笑って答えるかと思いきや、押し黙ってしまった。
思わず不安になる。やがて――

『……違うんだ』

なぜか消え入りそうな声で呟いた。

『謝らなければならないのは、俺の方なんだ。君が危ない目に遭ったのは、俺のせいだから』

「……どういうことです?」

『あれは十中八九、俺に恨みを持った者の犯行だ』

「でも、警察の方は、通り魔じゃないかって――」

「昔っから、危険な目に遭うことが多くてね。以前にも、こんなようなことがあったんだ」