「落ち着いて、華穂ちゃん」

御堂さんが穏やかに囁いた。私を安心させようとしてくれているのがわかる。信じられないくらい、優しい表情。
そして彼はあろうことか、傷口から手を放し、私をぎゅっと抱きしめた。

「み、御堂さん、ダメ、血が……!」

「大丈夫。このくらいじゃ死なないよ」

「……でも、こんなに流れてっ……」

御堂さんは血で真っ赤に染まった人差し指を自らの唇に押し当て、シーッ、と囁く。

「君が無事なら、それでいい」

痛みなんて感じさせない、とびきり柔らかな笑み。
胸がぎゅっと締めつけられて、堪えきれなくなった涙がボロボロと瞳からあふれだした。

そんなにたくさん血を流して――
私のことなんてどうでもいいから、自分のことを大切にしてよ。
その笑顔が私をどれだけ苦しめているか、全然わかってくれない。

やがてバタバタと足音が近づいてきて途端に辺りが騒がしくなった。
遠くからサイレンの音も聞こえてくる。警察と救急車がようやく到着したようだった。

「大丈夫ですか!?」「今救急車が来ましたから!」
警備員やホテルスタッフが慌ただしく駆け寄ってきて、やがて正面玄関に一台の救急車が停車する。

「ほらね。大丈夫だって言ったでしょ?」

そうおどけてくれた御堂さんの顔色は、五分前よりも青白くなっている気がして、私は心臓が張り裂けそうだった。