――ドンッ――

御堂さんの身体越しに、大きな衝撃を感じた。
男がバランスを崩し、がっくりと膝をつく。取り落したナイフが、アスファルトの上を回転しながらカラカラと滑っていった。

一方の私たちも、抱きしめ合ったまま地面へと崩れ落ちる。

そこへ騒がしい声が聞こえてきて、顔を上げるとホテルの正面玄関から警棒を持った警備員が数人走ってくるところだった。

「あそこだ!」「動くな!」「警察を呼べ!」

どうやら気づいた誰かが助けを呼んでくれていたらしい。

複数の警備員相手に、分が悪いと判断したのだろう、男が立ち上がって敗走する。
警備員はホテルの敷地内ぎりぎりまで追いかけはしたものの、外に走り去ったことを確認すると、その場にとどまり、無線で連絡を取り始めた。

とりあえず、窮地は脱したみたいだ。御堂さんに抱きしめられたまま、なんとか落ち着こうと、大きく息をする。

突然思いもよらぬ事態になって、今でもよく状況が飲み込めていない。
情けないことに、ホッとしたと同時にガタガタと震えが止まらなくなった。

助けを求めるように御堂さんの顔を振り仰いだとき初めて、彼の笑顔にわずかな苦悶が混じっていることに気がついた。

「御堂さん……?」

そんな、まさか。全身が凍り付いて、恐怖に眩暈がした。
彼の視線を辿ってみると、地面に真っ赤な血痕がいくつも落ちていて、その上――彼の手首からは、幾筋もの血液が伝い、滴っていた。