Melty Smile~あなたなんか好きにならない~

御堂さんは男から目を離さぬまま、即座に後方へと下がり、背中に私を覆い隠す。

男は私たちの様子をしばらくうかがったあと、意を決したように走りだした。
身体を大きく揺さぶって、捨て身でナイフを振りかざす。

「きゃあ!」

すぐ脇を刃物が凪いで、あまりの恐怖に足が竦んでしまった。
御堂さんが私を背中に庇いながら、ナイフの軌道から逸れてくれたからよかったものの、一歩間違えれば刺されていたかもしれない。

男は酔っ払いのように足をふらつかせ、勢いを殺しきれず、そのまま前方へつんのめった。
しかし、転ぶ寸前でなんとか態勢を保って、再び私たちに向かって突進してきた。

「逃げるんだ!」

鬼気迫る叫び声が夜闇を切り裂いた。

御堂さんが私の身体を後方へと押し出し、同時に自らは前方へと踏み込む。
寸でのところで身を翻しナイフを避けて、脇から男の腕に掴みかかった。

男の手首を取り、ナイフの矛先を遠ざけようと上へ向けるが、男もそれをあっさりとは許してくれない。
脚と肘で牽制し合い揉み合うふたり。

御堂さんの方が身長がある分、腕や脚のリーチが長く、優勢のように思えるけれど、なにしろ相手はナイフを持っている。一歩間違えれば致命傷。

御堂さんは慎重に力を込めて、男の動きを封じようとしていた。