私の手を引きながら少し前を歩く背の高いうしろ姿を見つめていると、どうしようもなく胸が締めつけられた。
信じたいと思うのは、信じられる根拠があるわけではなくて、ただの願望にすぎない。
それでも、心の奥底から湧き上がってくる衝動に抗うことなんてできない。
例え彼が嘘つきでも、私の気持ちを弄んでいるのだとしても、この手を放したいとは思えない。
私が彼の手をきゅっと握り返したとき。
突然、彼の歩みが止まった。
なにか悪いことをしてしまったのかと思い、不安になって見上げてみると、彼は驚いたように目を見開いて歩道の先を見つめていた。
正面玄関まではまだ少し距離のある、ひと気のない裏道。
ホテルの一階部分を支える巨大な柱の影に、一人の男が立っていた。
その男は私たちに向かって、よろよろとした覚束ない足取りで歩いてくる。
四、五十代くらいで、くたびれた黒いスーツを着ていた。
髪と髭はだらしなく伸びてボサボサで、世界の終わりのような精気のない表情と虚ろな瞳を携えている。
その男は右手にキラリと光るものを握っていて、目を凝らしてみるとそれは――
「……み、御堂さん……!」
「華穂ちゃん、下がって」
――短い刃の、ナイフだった。
信じたいと思うのは、信じられる根拠があるわけではなくて、ただの願望にすぎない。
それでも、心の奥底から湧き上がってくる衝動に抗うことなんてできない。
例え彼が嘘つきでも、私の気持ちを弄んでいるのだとしても、この手を放したいとは思えない。
私が彼の手をきゅっと握り返したとき。
突然、彼の歩みが止まった。
なにか悪いことをしてしまったのかと思い、不安になって見上げてみると、彼は驚いたように目を見開いて歩道の先を見つめていた。
正面玄関まではまだ少し距離のある、ひと気のない裏道。
ホテルの一階部分を支える巨大な柱の影に、一人の男が立っていた。
その男は私たちに向かって、よろよろとした覚束ない足取りで歩いてくる。
四、五十代くらいで、くたびれた黒いスーツを着ていた。
髪と髭はだらしなく伸びてボサボサで、世界の終わりのような精気のない表情と虚ろな瞳を携えている。
その男は右手にキラリと光るものを握っていて、目を凝らしてみるとそれは――
「……み、御堂さん……!」
「華穂ちゃん、下がって」
――短い刃の、ナイフだった。



