「――なんでそんなにムキになんだよ。その女はお前にとって、結婚するまでの繋ぎでしかないんだろ?」

「なにか勘違いをしていないか?」

御堂さんがベンチの上でへたり込む私に手を差し伸べながら、陣さんに鋭利な眼差しを向ける。

「誰が繋ぎだなんて言った? 彼女がすべてだ」

そう言って、立ち上がった私の腰に手を回し、乱暴に引き寄せた。誰にも渡さないとでもいうように。

――本気で言ってるの?
ううん、またその場しのぎの嘘だよね……?

斜め上にあるのは有無を言わさぬ瞳。冷淡なくせに情熱的。隙間からわずかに覗く本能は、荒ぶる獣のように野性的で、恐ろしい。

別人のような彼の姿に目を逸らせなくなってしまった。
陣さんも同じだったのかも知れない、地面に腰を落としたまま、愕然と身動きを取れなくしている。

そんな陣さんから視線を外し、威圧感たっぷりの瞳が今度は私の方を向く。

「行くよ。華穂」

低い声で呼び捨てられて、恐ろしさにぎゅっと縮こまる。
平手打ちしてしまったことを怒っているのだろうか。

恐ろしくて、こくこくと何度も頷いた。
御堂さんは私の腰に手を回したままで、陣さんから引き離すようにベンチを離れ石の歩道を歩き出した。

「――待てよ! 千里はどうするんだ!」

追いすがるように叫ぶ陣さん。

「あんなに大切にしてた千里を裏切って、心痛まないのかよ!? 婚約はどうする!」

そんな彼に、御堂さんはもう一度冷ややかな視線を投げた。