そのとき。

「離れろ」

低い声が響いたと同時に、私の上に乗っていた陣さんの重たい身体が浮き上がった。
全身の拘束がとけて、手足が自由になる。

「うわっ!」

悲鳴とともにドサッという、地を擦るような鈍い音。痛っ!という呻き声。

……なにが起きたの?

驚いて目を開けると、陣さんがベンチから崩れ落ちて尻餅をついていた。
その背後に立っていた別の人影が、私を庇うかのように、陣さんとの間に割り込んできた。

「……間に合ってよかったよ。もう少し遅かったら、本気で殴るところだった」

そのうしろ姿の彼――御堂さんが、冷ややかにそう言い放った。
私を探し回ってくれていたのだろうか、上がった息遣いをならすようにわずかに肩が上下している。

「……ちっ」

陣さんは汚れた衣服をパンパンと叩きながら立ち上がって、そんな彼を鋭く睨み付けた。

「……女ひとり幸せにできないヤツが、なにを偉そうに――」

その襟元を、御堂さんがすかさず乱暴に掴み上げた。

「ぐっ……!」

突然のことに驚き、目を白黒させる陣さん。足がわずかに浮き上がり、苦しそうに顔を歪める。
これじゃあ、本当に息が出来なくなってしまう、やりすぎだ!

「――御堂さんっ!」

切羽詰まった私の声に、御堂さんが締めつける手を放した。
陣さんは再び地面に崩れ落ちて、ゲホげホと咳き込みながらもなんとか呼吸を取り戻す。

そんな陣さんの耳もとで、御堂さんがそっと囁く。

「華穂は俺のものだと言っただろう。二度と触れるな」

わずかに掠れた、怒りを押し殺すその声に、ぞっと背筋が寒くなる。