「あの……私、大丈夫ですから。そこまでしていただかなくても……」

「気に入った」

「……え?」

陣さんはじたばたと暴れる私を抑え込み、ベンチの背もたれへ押し付けた。

「嫌なこと、忘れさせてやるよ」

「……はい?」

力ずくで私の身動きを封じる陣さんに、警戒心が湧き上がってきた。
慌てて逃げ惑うも押さえつけられて、気が付いたらベンチの上に体を横たわらせる私。そして、その上に重なる陣さん。

「目ぇつぶれ」

「……えっと」

「夕緋の代わりになってやるって言ってんだ。さっさとわかれよ、この鈍感」

鈍感って……確か同じことを御堂さんにも言われた気がする。
さすがに鈍感な私でも、この状況が普通じゃないってことくらいわかるよ。

「待ってください!」

「おい、こら、暴れるなって――」

「やだっ……!」

どうして急にこんなことになってしまったのだろう。
彼の体重が私にのしかかってきて、恐ろしさにギュッと目を閉じてしまった。
けっして彼に目をつむれと言われたからではないし、この先のなにかを期待しているわけでもない。

けれど、私の中途半端な行動が、彼を勘違いさせてしまったのかもしれない。
目を閉じていても彼の顔が近づいてきているのがわかる。顔を背けるも、なおも追いすがってきて、鼻筋を彼の吐息が掠めた。

キスされる……!