「彼女は華穂。俺の恋人だ」

千里さんに見せびらかすように、私をぎゅっと抱きしめた御堂さんは、それだけでは飽き足らず、頬に口づけまで落とす。

千里さんの顔から笑顔が消え、サッと青ざめたのが分かった。

「……お付き合いしている方が……いらっしゃったんですか?」

愕然として一歩、二歩と後ずさる。
表現豊かであどけない彼女は、ショックを受けたときも分かりやすく素直だった。
大きくて真ん丸い瞳が、今にも涙を零しそうに潤む。

「だから、婚約の話は受けることが出来ない」

今までの態度から一変、手のひらを返すように冷たい態度ではっきりと告げた。

もともと白かった千里さんの顔色がいっそう血の気を失い、今にもショックで失神してしまいそうだ。

そんな彼女を見ていたら、その行為がどれだけ残酷だったのか、責任を突きつけられているような気がした。
もちろん、御堂さんだけではなくて、片棒を担がされた私も共犯だ。

どうしてこんな嘘を……

見上げた御堂さんの横顔は、憎たらしいほど堂々としていて、揺るがない。

……彼女を見て、何も感じないの?

好きな人が目の前で別の女性と――それがどんなに無慈悲だかわからないのか。
例え、御堂さんが千里さんと結婚したくなかったとしても、彼女を傷つけていい理由にはならない。

いずれにせよ、早くこれが嘘であると千里さんに伝えなければ。
傷ついた彼女を目の当たりにして、罪悪感に耐えられなくなりそうだ。

けれど、私より一足先に沈黙を破る者がいた。