「陣にも紹介するよ。彼女は――」

「知ってるよ! ホテル中、お前の話題で持ちきりだ! こんなところに女連れてきて、いったいなに考えてんだ! とりあえず、逃げるぞ!」

そう言って陣さんは御堂さんの腕を鷲掴みにする。
咄嗟に御堂さんが私の肩に手を回したから、私の身体まで一緒になって引きずられ、よろけてしまった。
ただでさえバランスの悪いヒールなのに、そんなに強く引っ張られたら転んでしまう。

「あの、ちょっと、待ってくださいっ!」

「まったく、陣は相変わらず慌ただしいな」

「誰のせいでこうなったと思ってんだよ! いいからついてこい!」

バルコニーからパーティー会場に繋がる扉をくぐり抜け、私たち三人は客人たちの隙間を縫うようにして出口へと向かった。
会場を出て受付のあるエントランスホールに差しかかったあたりで、陣さんが焦りに耐えきれなくなり声を上げた。

「これから千里が来るんだよ! 鉢合わせないようにしないと!」

それを聞いた御堂さんは、ほう、と目を光らせた。

「ちょうどよかった。千里にも彼女を紹介しようと思ってたんだ」

「は!? なに考えてんだお前! そんな修羅場、冗談じゃねぇ! あんただって、そうだろ!?」


突然『あんた』と睨まれて同意を求められたけれど、当の私は話の筋が全く見えない。

「『修羅場』って、どういう意味ですか?」

私の質問に「はぁ?」と顔を歪めた陣さんは、恐ろしい形相で御堂さんを睨み付けた。