その瞬間、大きな音とともにバルコニーに通じる扉が開け放たれた。

「夕緋!!」

突然降ってきたのは怒鳴り声。私と御堂さんはハッとして距離を取る。

バルコニーに飛び出してきたのは、白いコックコートを着た男性だった。手には背の高いコック帽を握っている。
明るめの茶髪に、御堂さんより一回り小柄な体躯。
とはいえ、御堂さんの身長が高すぎるだけで、一般的な成人男性の平均と同じ、もしくはそれ以上はありそうだ。

御堂さんは「おっ」と声を漏らして、うれしい驚き、そんなような顔をした。

「やあ、陣。久しぶり。びっくりしたじゃないか」

慣れ親しんだ友人にするみたいに、片手を掲げ、陽気に挨拶する御堂さん。
しかし『陣』と呼ばれた青年は、憤然と叫ぶ。

「びっくりしたのはこっちだ! お前がやらかしてくれたせいで、こっちは厨房飛び出してくる羽目になったんだからな!」

言葉の通り、どうやら相当急いで駆けつけてきたらしかった、荒い呼吸で肩を上下させながらつかつかとこちらへ走り寄ってくる。

そんな彼を目の前にしても、御堂さんはマイペースなまま微笑んでいた。

「あ、彼は旧友の陣。これでもそれなりに名の知れたパティシエで、今日このパーティーのスイーツも彼が担当しているんだ」

「『これでも』とか余計だ! どう見ても一流パティシエだろうが!」

陣さんは不満をあらわにしたけれど、若々しく見える彼からは、正直『一流パティシエ』というような風格は見られなかった。
けれど、海外の三ツ星シェフと肩を並べてこのパーティーの料理を監修するくらいだから、きっと凄い人なのだろう。