「あ、ちょっと……」

掴まれた腕を動かそうにも、びくともしない。
彼は私の指先に指を絡めてしっかり握ると、再び私を引き寄せた。

「もしも本気で付き合おうって言ったら、考えてくれた?」

「え……?」

彼の腕が腰に回り、逃げ出したがっている私の身体をしっかりと捕まえた。

「このまま今日は帰さない。どちらにせよ、お酒を飲んでしまったから、車で送ることもできないし」

「……御堂さん?」

「ホテルの部屋を取ったと聞いて、少しはそういうこと、考えなかった?」

目の前の瞳が突然真剣になり、私の心が警鐘を鳴らす。

今度こそ、本気……なの?

私の頬に手を伸ばす彼を、半信半疑のまま見つめ返した。というより、視線を逸らすことができなかったという方が正しい。
頬に触れた指の感触に、胸の奥で処理しきれなかった感情がじわりと溢れ出す。

彼を見ていると、苦しくなる。
憎らしくて、腹立たしくて、悔しくて――なのにこんなにも愛おしい。
この瞳を逸らしてほしくないなんて、どうしてそんなことを思うのだろう。
すべてがごちゃ混ぜになったような、とても言葉では言い表せない感覚に酔わされる。

「華穂ちゃんは少し鈍感だから、強引にしないとわかってもらえないみたいだ」

そう言って、御堂さんが私の顎に指を添えてそっと押し上げた。
綺麗な、でも意志の強い瞳が私に近づいてくる。
今度こそ逃してくれそうにない。