「なに……言ってるんですか」

こんなの、冗談が過ぎる。
いつもだったら怒るところだけれど、そんな目をされては、うまくあしらうことができない。

「嘘をつきたくないんだろう?」

私を抱きしめる腕に力がこもって、彼のこの行動が本気なのか冗談なのかわからなくなってきた。

ゆっくりと顔を近づけ、唇の距離を縮めてくる彼に、私の全身は熱く火照り出す。
鼓動も高鳴り、息苦しい。
彼の吐息が鼻を掠めたとき、微かにワインの香りがした。

「……御堂さん、酔ってます?」

「酔ってないよ」

「嘘、あんなにたくさんワイン飲んで……酔った勢いでふざけているんでしょう!?」

やっとのことで声を絞り出すと、彼は私の身体を解放して、クスクス笑った。

「そんなに怒らないで。軽い冗談だ」

やっぱり冗談だったんだ。人のこと、バカにして……。
本気でドキドキしてしまった自分が恥ずかしい。

「……御堂さんのそういうところ、嫌いです」

悔しくって、背中を向けると、うしろから揚々とした声が飛んできた。

「照れてるってことは、ちょっとは俺にも希望が見えてきたってことかな?」

「て、照れてなんか!」

「うれしいなぁ、難攻不落の華穂ちゃんを落とせる日がくるなんて」

「落ちてません!」

本当にイライラとしてきて、彼の腕を力いっぱい叩いた。
二発目を食らわせようとしたとき、振りかぶった私の手を、彼が受け止めた。