「華穂~。おいで~」

どこからともなく夕緋の声が響いてきた。
シャワーを浴びてくる、そう言って部屋を出ていったはずなのだが。

探してみると、その声はやはりバスルームの中からで、そうっと脱衣所のドアを開けてみるが誰もおらず、どうやらさらに奥にいるようだった。

「華穂~」

湿度で無数の水滴を張りつかせた曇りガラスの奥で、急かすように私の名前を呼んでいる。

「夕緋?」

さすがに開けるのを躊躇われて、扉の前に立って会話を試みるも。

「入っておいで」

明け透けにそんな要求をしてくる。

確かに、さっき身体を重ねたばかりで恥ずかしいもなにもないのかもしれないが、煌々と明かりのついた部屋でまじまじと裸を見るのとはわけが違う。

恐る恐るバスルームの扉を開けてみると――。

「わぁぁ……」

バスタブに胸まで浸かる夕緋。そして湯船には敷き詰められた薔薇の花びら。
お湯が見えないほどに水面が真っ紅に染まっている。

「素敵……」

薔薇もロマンティックで素敵だが、水を滴らせながらわずかに紅潮する夕緋の素肌がそれ以上にドキドキする――とは言えない。