「でももうこんな時間だし、少しだけ乾杯してあとは明日にしよう」

「この大きさ、明日一日かけても食べられるかどうか……」

「じゃあ、明日は陣や千里も呼んでパーッとお祝いしようか。無事にすべてが片付いたことだし」

「はい!」

三ヵ月前、事件の真相が発覚して、夕緋の手に怪我を負わせた犯人も無事に捕まり、事件は終息を見せた。

その直後、私と千里さんが会っていたことを、実は夕緋に話していない。

私のもとへひとりで訪れた千里さんは、とんでもない事件に巻き込み、その上個人情報まで流出させてしまって、申し訳ありませんでしたと謝罪した。

婚約できなかったことについては、ショックを受けているようだったけれど、もうあきらめて割り切ったとも言っていた。
そもそも政略結婚なんかに頼ろうとしていた自分が間違っていたのだと、親の力ではなくこれからは自分の力で男性との関係を築いていけるよう頑張りますとも言っていた。

そんな流れの中、夕緋が自分の兄ならその彼女である私は姉、という案配で、なぜか懐かれてしまった。

……実際のところ、私と夕緋は付き合ってなどいないのだが、千里さんはまだ私たちが恋人関係であるという嘘を信じている。
こんな状況になってしまった手前、今さら訂正もできないというのが実情だ。

少々突っ走り気味の性格の彼女は、強引に私を連れ出して買いものや食事に付き添わせ、気がつけば振り回されている始末。
頻繁に会う――というよりは呼び出されるといった方が正しいかもしれない。