「陣さん! それ――」

「おっと」

取り返そうと手を伸ばした私をさらりとかわし、陣さんは出口のドアの前に立ち塞がる。

「悪いけど。あんたにはしばらく大人しくしといて貰いたいんだ」

「……どういうことですか。御堂さんは?」

「夕緋はこねぇよ。代わりに、丸一日、俺とこの部屋にいてくんねぇ?」

陣さんがニッと笑う。全身が総毛だつような、邪悪な笑みだった。

「じょ、冗談言わないでください!」

わざわざ睡眠薬を使って私をこんなところに連れ込むなんて、いったいなにを考えているのだろう。
なんだか恐ろしくなってきて、部屋を出ようと彼の横をすり抜けたとき。陣さんが私の腕を掴んだ。

「ストップ。この部屋からは出ないでくれ。あんたの家族が人質だ、って言えばわかるか?」

陣さんの口から飛び出したフレーズが信じられなくて、身体が硬直した。
今、なんて……?

「丸一日、ここで大人しくしていてもらう。逃げようなんて考えるな。従わなければ、あんたの家族に報復させてもらう」

『報復』――その単語に恐怖の記憶が蘇った。
私の携帯電話に来た脅迫メール――『家族に報復する』まさかあれは――