不安と期待を胸に抱いて辿り着いた客室は、狭くもなく広くもない、これといって特徴のない部屋だった。
ベッドふたつにテレビと冷蔵庫と化粧台、窓辺には二人掛けのサイドテーブル。

十階である分、窓からの眺めだけは良好そうだ。
とはいえ、陽が沈んでしまった今では、光の乏しい夜景しか見えない。近くに山の影が見えるが、ここはいったいどこなのだろう。私が眠っている間に、どれだけ車を走らせたのだろうか。

――夜……?

ハッとして私は周囲の時計を探した。
ベッドの脇に見つけたデジタル時計は、もう二十一時を示していた。
御堂さんと別れて車に乗ったのが十六時前。サービスエリアで休んだ後、助手席でうとうとし始めたのは十七時頃だったと思う。

「陣さん、あれから私、そんなに寝ていたんですか?」

「三、四時間は寝てたんじゃねぇの」

その答えに驚いて言葉を失う。まさか助手席でそこまで熟睡していたというの?

「……ごめんなさい、運転してもらっているのに、そんな長時間寝てしまうなんて」

半信半疑の私へ、陣さんはポケットに手を突っ込みながら軽く答えた。

「まぁ、睡眠薬飲んだから、そんなもんだろ」

「……え?」

一瞬頭が真っ白になった。睡眠薬……?

「陣さん……それはどういう……」

「コーヒーに入れといた。ここに来るまでに、騒がれても困るし。それから、外部との通信手段も断っとく必要があったから」

そういって陣さんがポケットから取り出したのは携帯電話。私のものだった。