「陣さ――」

彼の腕が少しだけ震えていることに気がついて、なにも言えなくなってしまった。
もしかして、私がなにか失礼なことでも言ってしまったのだろうか……?

その答えに辿り着く前に信号が青へと変わってしまった。
陣さんは私の身体を解放して何事もなかったかのようにアクセルを踏み込む。

「陣さ――」

「見てんじゃねぇ!」

「は、はい……」

怒鳴った陣さんの横顔は、苛立ちながらもどこか悲しそうで、わずかに瞳が赤く潤んで見えた。
これ以上横顔を見つめていたら余計に怒らせてしまいそうだったので、仕方なくうつむいて彼の機嫌が直るのを待った。

しばらく荒っぽい走りが続いて、話しかけるなというオーラを放っていたけれど、やがて彼の方からなんてことない世間話を振ってきてくれて、機嫌が直ったのだとわかった。

いつも通りに戻ってくれた陣さんだったけれど、一瞬見せた助けを求めるような仕草に引っかかりを覚えて、なんだかうまく顔を見れなくなってしまった。