「だから陣さんは――」

「違う」

困惑した声が隣から響いてきた。

「華穂……俺は優しくなんかない……」

照れている――という表情ではなかった。
優しいと言われることが汚らわしいことでもあるかのように顔を歪めている。
自分には優しさなんて縁遠い、褒め言葉を貰うに値する人間ではない――まさかそんな風に思っているのだろうか。

「……確かに陣さんは強気で強引なところもありますけど、優しいところも――」

「やめろ!」

突然大きな声で言葉を遮られて、驚いて陣さんを見上げた。
そこにあったいっそう苦しみを増した顔に、ハッと息を飲む。

「やめてくれ……俺は自分のことしか考えていない、最低なやつで……」

そこまで卑下する理由がちっともわからないけれど、はい、そうですね、とも言えなくて――

「……陣さんは、優しいですよ……?」

恐る恐る、お伺いをたててみる。

そのとき、突然陣さんが急ブレーキをかけた。
背中から重力がのしかかり、身体が前に揺らされる。正面を見ると赤信号。
止まった理由が信号だと理解しつつも、あまりの急ブレーキだったから、心配になって彼を覗いてみると――

「っ!」

突然陣さんが私の背中に手を回して、ぎゅっと強く抱きしめてきた。