Melty Smile~あなたなんか好きにならない~

「夕緋。今すぐ共同開発プロジェクトを形にしたいと言うのなら、お前もそのプロジェクトの一員として参加なさい。自分で立案しておいてあとはお願いしますじゃあ、あまりにも無責任だろう。でなければ、この話はなしだ」

御堂さんが身を凍らせる。
それはつまり、今のデザイン会社社長という地位を捨て、御堂家の跡取りとして戻ってこいということだろうか。

つい先ほどまで『取引はする』などと公言しておいて、今さら足もとを見て条件を変えてきた。
婚約などより、この方がずっと確実に御堂さんを管理下に置ける、絶好のチャンスだと考えたのかもしれない。
さすが、大企業を治める主。狡猾で頭の回る人だ。

「親父。俺も今では、代表としての責任を背負っている身だ。ほいほいと従業員を解雇して転職とはいかない」

「それならこの話はなしだ」

あまりにも容赦なくお父様は言った。
険悪な空気が場を包む。
ここでしばらく傍観していた橘家の伯母様が沈黙を破った。

「わかりました。こう致しましょう」

全員の視線をその身に受けながら、伯母様は涼やかな表情で提案する。

「そこのお嬢さんを襲った犯人捜し、お手伝い致しましょう。その代わり対価として、どちらかの条件を飲んでいただきます。お父様とともに、次期当主として共同開発プロジェクトに携わっていただくか、あるいは――」

伯母様が手もとの扇子を勢いよく閉じて、パンとひとつ大きな音を鳴らした。

「当初の予定通り、千里と婚約していただくか」