夕方。

妻の時栄に介助されながら山本が戻ってきた。

「お久しぶりにございます」

「岸島さんか」

「すっかりご無沙汰いたしております」

どうも失明してから山本は声で覚えていたらしい。

「ところで、小野から聞いたが」

どうやら仔細は江戸の小野権之丞から聞いていたようであった。

「原田くんは残念だったなぁ」

「まぁあいつはあいつらしく生ききったというところかと存じますが」

「おまさどのとおしげどのの行方、大垣屋に探してもらっておる」

と山本は言った。

「しかし新撰組の妻となると今は肩身が狭い。岸島さんも道中、苦労されたのでは」

「はい、行く町行く町で宿を断られてしまいまして」

仕方なく伊勢参りの名目で寄り道をして京まで来た話をした。

「ではしばらくうちにいなさい」

「しかし…」

「君はそろばんが出来るだろう。うちは女手もあるがそろばんは手薄でな」

山本は初めて笑みを浮かべた。