客間へ通された岸島は、

「山本先生にはひさびさにお会いいたすゆえ、果たして先生が覚えておられるかどうか」

と不安を口にした。

そこへ茶が運ばれてきた。

「兄さまは覚えておられると思います」

といい、

「妹の八重にごぜぇます」

と名乗った。

「ところで岸島さまにお聞きいたしますが」

と八重は、

「兄さまとはどのようなお知り合いで」

と訊いてきた。

「それがしは勘定方ゆえ、会津さまのもとへ金子や帳面の話で伺った折、応対をされたのが山本先生であられた」

「さようでごぜぇましたか」

とのみ言うと、八重は下がった。