山本の洋学所は路地の突き当たりにある。

「ごめん」

岸島は呼ばわった。

「山本先生はご在宅でござろうか」

奥から体格のいい女があらわれた。

「…どちらさまにごぜぇますか?」

会津なまりが強い。

「元会津中将家御預、壬生浪士組勘定方、岸島芳太郎と申す」

と、あえて新撰組の正式な呼称で名乗った。

「壬生浪士組…もしかすると新撰組で?」

「いかにも」

「兄さまは府庁に出仕されました」

「帰りはいつ頃に?」

「夕方になるかと」

「ではどこかで待たせてもらいたいが、江戸から来たばかりゆえ不案内で店が分からぬ」

「ではこちらへ」

と、山本の妹らしき女は客間へ通した。