書生は徳富猪一郎といった。

「それがしは岸島芳太郎、新島どのとは古い友でござるよ」

すでに岸島は白髪が混じり始めていた。

「もしかして、新撰組のそろばん隊士の岸島さんでは」

なぜか徳富は岸島のことを知っていた。

「なぜといわれても、新島先生は貴殿の話をされておられたことがある」

新撰組にもそろばんのうまい武士があって、聖書の力で未来を切り開こうとしている…といったような内容であったらしい。

「新島どのらしいな」

岸島は久しぶりに笑った。