ならば分かりました、と新島は、
「その話は木戸さんに頼んでみることにしましょう」
と言い、
「ところで岸島さん」
と新島は話題を変えた。
「もしこのあと迷うことがあったなら、この書物を読んでみてください」
新島が渡したのは和訳の聖書である。
「勘定方とはいえ、新撰組にいたことは変え難い過去です。恐らく立身出世は…望めないかも知れません」
それは新島の指摘通りでもある。
京へ上るときに宿を断られたことからも、明らかであろう。
「あなたにとって、これが何らかの新しい道しるべとなれば、何か変わるかも知れません」
それは新島なりの、岸島から受けた情に対する恩返しであるかも分からなかった。
岸島は、聖書を受け取った。