洋学所へ岸島が戻ると、

「岸島さん、どうもあなたを嗅ぎ回る人があるようです」

と知らせてくれたのは新島である。

というのも。

「洋学所に新撰組にいた者が出入りしている」

という噂が府庁にたれ込まれ、槙村のもとへ東京にいた元隊士の巡査が送り込まれた、というのである。

「幸い、大垣屋さんがかくまうという段取りがついているそうですから、急いでそちらへ」

という新島と山本のはからいで、その日のうちに岸島は洋学所を引き払った。

が。

まだ原田の形見の件もある。

岸島としては、京を離れるわけには行かない。

川崎の形見の行李は、新島に託した。

「これは八重どのと離縁した、川崎どのの形見が詰まっておる」

新島は請け合った。