山本先生。

「…山本覚馬どのか」

「あのお方は今は府庁で知事の顧問をされておいでにございます」

これには岸島も驚いた。

とにかく旧幕軍に風当たりが強い時局である。

出立前に道中手形を取る際、宮津藩で手形を取ることができず、仕方なしに手塚良仙のつてで旧幕臣という肩書きにしてもらい、旧御家人の岸島芳太郎として、手形を取る羽目になったほどである。

それでも道中、

「いやぁ、お旗本さんを泊めると何を言われるか分からないので」

と、川崎でさんざん宿を断られたので一度江戸に戻り、お伊勢参りの名目に変えて再び川崎に来るとすんなり泊めてもらえた…ということすらあった。

そうして伊勢へ寄ったあと上洛したのである。