洋装の男はぬかるみにはまったらしく、フロックコートが泥まみれである。

「かたじけない」

見るとカイゼル髭だが、明らかに日本人ではないか。

「怪我はござらぬか」

「大事ない」

訊くと山本の洋学所へ行くとのことで、

「それがしも洋学所へ行く道ゆえ、同道いたそう」

岸島は軽く袴をぱんぱんと払うと、再び高瀬川の河原を歩き始めた。