それでも。 山本が府庁へ出仕するときなどには、介添人として岸島は山本を背負うこともある。 周囲に訊かれると、 「新しく書生となった岸島という者だ」 と山本は言い、それ以外は余計なことは言わなかった。 これにより。 妹の八重も女紅場(女学校)へ通うことが出来るようになり、 「これであとは八重に新しい嫁ぎ先を探すだけだが」 と、母の佐久が笑って話せるようにもなり、山本家へ来る陳情や応対にも多少はゆとりが持てるようになった。