「オッケー、じゃあ次のポーズいこうか!」


「えっ、まだ撮るの?」


「当たり前じゃない。
まだ2ポーズしか撮ってないわよ?」


「しか」って…。
こんなポーズをいくつもやるなんて勘弁なんですけど…!


「今は瀬川くんが攻めたから、今度は遥が攻める番ね!」


「えっ!?攻めるって、なに!?」


智花の言葉に後ずさりする。


瀬川と智花が、ニヤリと笑った。


「そうだなぁ例えば、遥から瀬川くんの首に腕を回すとか。こんくらいなら出来るでしょ?」


「こ、こ、こんくらいって!」


自分からは余りにもハードル高くないですか!?


「白雪姫ってそんなに積極的じゃなくない!?」


「これはポスターなんだから、人目を引けばそれでいいの。ほら早く」


ほら早く、と言われても、恥ずかしいものは恥ずかしい。しかも相手が瀬川とくればなおさらだ。


「次のポーズを撮らないと終わらないからね」


終わらないって、それは困るけど…。


むり。自分から瀬川に触れるなんて…むり。


「あれ、遥照れてんの?
俺が好きだからそんな恥ずかしいポーズ出来ないんだ?」


「はっ、出来るしっ!
あんたのことなんか好きじゃないし!!」


「じゃあほら、早く」


売り言葉に買い言葉。
くそ、完全に嵌められた。そう気付いても言ってしまった後ではどうしようも出来ない。


瀬川のことなんて何とも思ってない出来る出来る出来る。覚悟を決め、目を閉じる。


ふぅ、と一呼吸入れて、私は瀬川の首に腕を回した。


私を支えるためか、瀬川の両腕が腰に回る。


身長差から目を合わせようとすると上を向かなければならず、首に負担がかかる。


「首痛いから、早めに…」


本当はそこまででもないけれど、なるべく早く終わりたい、と智花に声をかける。


「じゃあ瀬川くん、首を支えてあげて」


瀬川の片方の手が頭に添えられる。
随分と楽になったが、


ダメだ。この姿勢はダメだ。


「なんか、キスする直前みたいだね」


「……っ、変なこと言うな」


私もそう、思ってしまったけれど。


少しどちらかが動けば、触れてしまいそうな距離。視界いっぱいに広がる瀬川の美しい顔。


「従順な遥も、かわいいだろうね?」


「なっ、なっ、何言ってんの!?」


私にしか聞こえていない瀬川の囁き声。
思わず体が震えて、腕を離しそうになる。


「あ、遥もうちょっと!」


「ま、まだぁ…?」


「わぁ遥ダメだよ。
完全に無自覚お色気モードのスイッチ入ってる」


「羨ましいわぁ、瀬川くん。
遥のこんな表情引き出せるなんて」


カシャカシャとシャッターを撮りながら智花が言う。


「その写真はクラスラインに載せないで俺個人に送ってね?」


「はいはい分かりました。じゃあ終わろうか。
本当はもうちょっと撮りたいけど。
瀬川くんが遥を襲っちゃう前にね?」


「お気遣い感謝します」


クスリ、と智花が笑う。


「ほんと、仲良いわねぇ」


「ちょっとやめてよ。全然仲良くないし!」


私の細やかな抵抗は、瀬川と智花のニヤニヤ笑いで黙殺された。